囲碁にまつわる言葉(う)
2023/10/10
「枕草子」その3
185段「したり顔なるもの」の一部分
「碁をうつに、さばかりと知らで、ふくつけきは、又こと所にかがくりありくに、ことかたより目もなくして、多くひろひとりたるもうれしからじや。ほこりかにうちわらひ、ただの勝ちよりはほこりかなり。」
相手が配石に不備があると気づかずに、欲張って別の所に打っている間に、違う方から目を奪って、多く取るのも嬉しい。誇らしげに笑い、ただの勝ちより誇らしい。
このような局面は、高段者同士の対局ではあまり見られません。「枕草子」その2で示したとおり、清少納言はかなりの力量を持っているはずです。こんな下手(したて)いじめのような打ち方をして、嬉しい、誇らしいと思うでしょうか。
「したり顔なるもの」の段は、どの写本にもあるのですが、「碁を打うつ・・」の文章が欠けている本が多くあります。その理由を考えてみました。
「碁をうつに・・」がある本の場合
○書き写した人が、自分の経験を書き足した(捏造した)。この人物は碁の力量がそんなに高くはないはずである。この捏造が、次々と書き写されていった。
○考えたくはないが、清少納言の原典に書かれていた。
「碁をうつに・・」がない本の場合
○清少納言の原典にはあったが、書き写した人が、枕草子の世界観にふさわしくないと考え、削除した。それが、次々と書き写されていった。
○原典にはあったが、写し手が、うっかりして写し漏らした。
○もともと、清少納言の原典にはなかった。
枕草子を研究なさっている方は、どんな解釈をなさるでしょうか。