囲碁にまつわる言葉(そ)
2023/8/3
「原爆下の対局」
囲碁のタイトル戦は数多くあるが、中でも本因坊戦は、歴史的にも権威あるものとされてきた。その3期目は、橋本宇太郎本因坊対岩本薫七段で争われることとなった。対局は、昭和20年、太平洋戦争末期の困難な社会情勢のなかで行われた。
5月25日の東京大空襲によって、日本棋院本院が焼失してしまった。こんな状況にあっても「本因坊の灯を消してはならない。」と、関係者の熱意で準備が進んだ。そして、広島市内の本川に面した藤井順一(日本棋院広島支部長)氏の別邸を会場として、六番勝負を全て行うことになった。7月24日から3日間かけて、第1局目が行われた。結果は挑戦者岩本七段の白番5目勝ちであった。対局中グラマン戦闘機の機銃掃射が対局場の屋根にあたるという厳しい状況の中で行われた。
同じ会場で対局を継続することは危険と判断され、2局目以降は広島市郊外の佐伯郡五日市町(現広島市佐伯区吉見園)に移されることとなった。
対局3日目の8月6日、午前8時15分、局面は白の106手目頃であった。爆撃機エノラ・ゲイが投下した原子爆弾が炸裂した。光線と大音響とともに、爆風で障子や襖が吹き飛び、碁石は飛び散り、窓ガラスは粉々になったという。
対局は一時中断されたが、部屋を掃除した後、10時半頃再開された。そして、午後4時頃に終局となった。白番の橋本本因坊の5目勝ちであった。