囲碁にまつわる言葉(g)
2022/7/17
「観戦記者」
棋戦の行われる会場に詰めて、対局を観戦し、対局者の様子や対局の雰囲気を記録することが主な仕事である。その記録をもとにして、観戦記を執筆する。観戦記は、新聞や雑誌に掲載される。テレビやインターネットといった伝達手段のなかった時代では、観戦記は、プロ棋士と一般ファンを結ぶ唯一の通信手段であった。
将棋では、戦前から食事やおやつの内容までが掲載されていた。最近でも、将棋の藤井聡太さんの勝負飯として、テレビで盛んに紹介されている。その影響か、囲碁の観戦記でも食事の話題が紹介されるようになってきた。囲碁・将棋を知らない人にも記事を読ませようということなのか。
観戦記者は、新聞と雑誌の記者とフリーの記者が多い。その他、プロ棋士や作家が観戦記者を務めることもある。作家では、坂口安吾、大岡昇平、石井妙子などが、囲碁の観戦記を書いている。中でも有名なのが、なんと言っても川端康成であろう。東京日日新聞の依頼で、1938年に行われた、21世本因坊秀哉名人の引退碁(対戦相手として木谷実七段が選ばれた)の観戦記を書いた。観戦記の取材は大作家らしい、非常に綿密なものだった。対局者の風貌、表情、言葉は勿論、対局場の様子の描写、当日の天候までも丁寧に記録した。後に、これをもとにして、小説「名人」が生まれた。