囲碁にまつわる言葉(u)
2022/12/18
「封じ手(ふうじて)」
現在のプロの囲碁の対局は、公平を期すために、制限時間を設けている。おのおのの持ち時間は、数時間に設定されることが多い。そうすると、休憩時間や食事時間を含めると、日をまたいで争われることになる。
「さて、今日はこれくらいにして、続きは明日にしましょう。」と、そのまま両者が分かれたら、最後に打ったものが不利になる。相手はその手を見て、対策を考える時間がたっぷり生まれることになるからである。
そこで考え出されたのが「封じ手」という方法である。その日の最後の石を置く者は、立会人の用意した記入用紙に、自分の着手を記入する。これは、立会人はもとより、誰も見てはならない。本人以外は、誰にも分からない。
記入用紙は封筒に入れられ、両対局者、立会人、副立ち会い人が、封筒に署名する。封筒は、厳封の上、厳重に保管される。
翌日、対局時間になったら、記録係によって、封じ手直前までの手順が読み上げられ、盤上に再現される。それから、立会人によって、鋏で封筒が開けられ、封じ手が読み上げられる。
封じ手の手番に当たるのを嫌う棋士が多いという。「あんな手を打たなければよかった。」「ひょっとして、記入用紙に間違って書いたのではないだろうか。」いろいろ思い悩んで熟睡できないという棋士がいる。そこで、封じ手の手番にならないように、駆け引きが生まれる。封じ手の時刻直前まで時間を引き延ばして、そろそろ封じ手という時に着手する。相手は、自分のほうに封じ手が回ってくるとは、と焦る。
封じ手にまつわるエピソードは、川端康成の「名人」にも描かれている。また、三谷幸喜の推理小説のトリックの材料としても使われた。