1月読書会報告ー星新一作「おーい でてこーい」今を予見する文学
列島を覆う寒波に見舞われた1月26日(木)、13人が育成センター第1研修室に集まり、今年、最初の読書会を開きました。題材は7ページで完結のショートショート。今までの最短編小説です。。面白かったです。意見、感想が飛びかいました。
現代社会への風刺ですかねという問いかけや捨てたいものは何でも放り込める便利な穴と青空の関係、「おーいでてこーい」とは何に対しての呼びかけか等が最初に出ました。日常あった小さな社が、流されてしまうとどこにあり何を拝んだのかを忘れる村人、特ダネを狙い集まる新聞社、物好きのやじうま、儲けたい利権屋、分からないとは言えない学者、真面目な駐在さん。底なし穴に群がる人たちは、現代の日本人、私たち自身と重なると言う意見に共感が集まりました。始めは、キツネの穴かなあと「おーい」の声掛けと小さな石ころを投げるだけでした。便利で儲かると直感すれば大胆不敵!都会から「都合の悪い、危険なもの」を、大量に運び、次々と放り込んでいきます。原子炉カス、諸官庁の機密書類、動物実験に使われた死骸、浮浪者の死体、汚物、個人の過去の日記や写真、警察の押収偽札、犯罪者の証拠物件等等・・。現代の日常生活に一致するのではという嘆きが多く出ました。大地震で火災事故を起こした原発の汚染土や汚染水の処理(土壌深く埋蔵、パイプで1㎞沖合で希釈等)、病原菌ウイルスに翻弄されたこの3年間、廃棄しても復元される個人情報、領土侵略を受けた大統領の降伏演説で話題になったフェイクニュース等等。作者は65年前にこの作品を書きました。「穴は都会の住民たちに安心感を与えた。つぎつぎと生産することばかりに熱心で、あとしまつに頭を使うのはだれもがいやがっていたのだった。・・」ラストは、建築中のビルの鉄骨上で休んでいた作業員が空から「おーい、 でてこーい」と叫ぶ声を聞き、続けて落ちてきた小さな石ころには気がつかなかった。で結ばれます。無限の穴は、どこかでねじれて逆転、空となり、人間の頭上に危険物が、捨てた順に降りかかると暗示しています。宇宙塵が大気圏を破って落ちたように。「因果応報」という言葉も出ました。2回目の「おーい でてこーい」は、作者の「大量生産、大量消費の危険性に気付く人間出てこーい」という叫びかも。日本文学の中では異質だが、これぞ文学です!という意見も印象的でした。国民総背番号制で自分を見失ったり、アンドロイドに振り回されたりの作品も紹介されました。新聞の文芸批評に「文学は今を予見する」という見出しがありました。それが実感できるショートショートです。かって20世紀に手にした村上春樹本も中上健次本も、描かれた社会が現実になりつつあります。ただ、作家たちの予見性に感心ばかりしてはいられません。世界の終末時計は「待ったなし。」を示していますから。
と、外の寒さを忘れて話し合った読書会でした。2月の読書会は第3木曜日の16日。題材は有吉佐和子作「江口の里」。またお知らせ致します。 ◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦ 読書会広報部 ◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦
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