10月読書会報告ーマクナマス氏行状記ー吉田健一作「嘘」?「真実」? - 横浜市退職小学校長会

10月読書会報告ーマクナマス氏行状記ー吉田健一作「嘘」?「真実」?

2022/10/27

10月27日(木)、青少年育成センター第1研修室に16人が集まり、「マクナマス氏行状記」の読書会をしました。

多く出た感想は「マクナマス氏に作者自身が見える」「日本人の見方、考え方への皮肉、揶揄」「戦前・戦中・戦後の

描き方が、まるで違う」「自分や親の体験とも違う」「文章がくどくて読み難い」「小説らしくない」等でした。

吉田健一は吉田茂の長男。幼年、少年時代から世界を知り、豊かな教養と卓越した英語力の持ち主でした。出身が判然

としないまま、怪しげな英語と笑顔で信用を集めるマクナマス氏とは違います。それでも、肩書と英語に弱い日本で、

もてはやされる立場は一緒でした。作者自身「天性の便乗主義」「一国家意識の欠落」「浮力」「人生は楽しむもの」

というマクナマス氏的要因を意識していたのではないでしょうか。まさかracketはしなかったでしょうが。

「白系露人」だろうと尊敬して、彼の高い月謝の英語塾に子どもを通わせて、自慢し合う日本人。英国の本を2倍近くの

値段で購入し、喜ぶ日本人。様々な世界架空団体への寄付金募集に、疑うことなく応じる日本人。信じて崇拝して財産を

つぎ込んで・・戦前の話とは思えません。日本への作者の視線は痛いほどです。マクナマス氏は当時の「外国人」印象を

集めたフイクションで、日本人の弱さは自分の中にもあるから真実という意見も出ました。でも、実直に苦労して生きた

私たちの親の世代には「異質の世界」でもあります。

「起承転結は無く、エピソードを重ねただけの小説」「次々と読みたいとは思わない」等の意見も出ました。

戦中・戦後もマクナマス氏は「その時はその時」と無頓着に生き、戦時中は軍部の、戦後は奥様連の夫たちの援助に便乗

して裕福に暮らします。ラストは・・だから、今晩も安心してマクナマス氏のところに飲みに行くのである。(完)・・作者、完全に共感!!

酒宴の席での楽しいぐだぐだ話だから、読み難いのだそうです。大学での吉田健一の講義は必ず単位をくれるので評判よく、

おおらかな人柄。小説か随筆かへの疑問には100%「嘘」は小説、当時人気のご自身の随筆でも80%は「嘘」と言われた

そうです。昭和30年ごろの私小説全盛の文壇に対しての一つの挑戦と受け取ってもいいのでは。とのことでした。

「嘘」か。魅力的な言葉ですね。

 

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