12月読書会報告 「水」佐多稲子作-健気な少女の仕草

今年の秋も冬も温かな日差しに恵まれました。年の瀬迫る12月28日、関内青少年育成センター地下2階に12人の皆様が集まりました。佐多稲子作「水」の読書会を報告致します。
冒頭の文から感想や意見が続出でした。
-幾代はそこにしゃがんでさっきから泣いていた。–
上野駅ホームの駅員詰所の横で泣き続ける主人公の悲しみの源は何か。なぜ題名は「涙」でなくて「水」なのか。「キャラメル工場から」と同様に作家の実体験が反映されているのではないか等々。
あふれる涙のもとは、故郷富山の母の死でした。左脚が少し短い幾代にとり、周囲の差別から守ってくれた唯一安心できる母親が亡くなるのです。
勤勉に働く労働力としか見てくれない住み込み先の主人たちの冷たさも身に沁みます。
ハハキトクスグカヘレ ハハシンダ、カヘルカの電報の重みも圧し掛かります。
-いよいよ頼りなく貧しげに見え・・しゃがんで泣いているということ自体、頼りなく貧しいこと・・しっかり鞄を抱いているのは、彼女自身が頼りなくてつかまり場を欲しているから・・と波のように「貧しさ」と「頼りなさ」の悲哀と絶望が繰り返されることにも気づきます。
両手で抱え込んだズックの鞄の中には、母を湯治に連れて行こうと貯めた貯金通帳とわずかの着替え。涙をあとからあとから拭きながら、胸の中で母親を呼ぶ主人公です。
ところがラスト、ホームの出しっ放しの水道の蛇口の傍に悲しみを運ぶ幾代は、通り際に無意識に栓を締め、元の場所に戻ります。題名の「水」は、主人公の健気で素直な日常の行動に「生きる力」を滲ませたのか、涙だけで終わらせない再生を託したのか・・
最後の一行-その場所にさえぎるものがなくなって春の陽があたった。
–作者の眼の温かさも多く指摘された読書会でした。
来年は1月25日(木)「待っている女」山川 方夫作です。皆様どうぞよいお年を。
◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦ 読書会広報部 ◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦