12月読書会報告ー寝台の舟ー吉行淳之介作 闇の中の「やさしさ」
朝から冷たい雨の降る22日(木)、13人の方が青少年育成センター第1研修室に集まり、読書会をしました。
今年最後になります。
性的な匂い濃厚な短編です。どんな感想が出るでしょうか。
人間の業、性的マイノリテイー、生き様、やさしさの意味、西洋の童謡と内容の二重の意味等の発言が続き、そのうち「これは教科書には載らない作品!」で爆笑。
作者の分身「私」が男娼「ミサコ」に寄せる思いや「精根尽きはてかけている」2人の共通点や違いについての意見が続きました。
「私」はすべて否定的悲観的な心象風景に囲まれ投げやりで退屈。それでも真っ暗闇に引きずられて眠れるのです。(童謡)
曖昧であろうと生きて行ける冷たい覚悟があります。
「ミサコ」の切羽詰まった生々しさは年ごとに失う「女らしさ」や若い男へ寄せる執念、情熱、必死な行動です。
寝台(ねだい)とは、明治時代に使われた言葉とのことでした。
幼子がばあやにあやされ眠るベッドとはまったく違う意味が含まれるとの指摘も。
繰り返し出る言葉で強調される構成の巧みさも出ました。(郵便の繰り返し等)
ただ一番多かったのは作品中に現れる「私」が「ミサコ」に寄せる「やさしさ」とは何?でした。
男の脂を照らし出す朝の光を遮ろうとすること?
学校に誘いの電話があるたびに部屋を訪れること?
なけなしの退職金をすべて「ミサコ」の香水に遣おうと想像すること?
不能に苛立つミサコの危ない注射針に命の危険を感じても腕を差し出すこと?
ー相手への労りは、愛情? 同情や憐憫? どちらでしょうか。
作品に挿入された童謡は4節。
「真っ暗闇へおし流す」や「夜っぴて闇を漕ぎまわり」等暗闇が強調され、最後の歌は(実際は2節目ですが作者が編集し直したそうです。)
こうです。
おやすみなさいという言葉
別れの船のごあいさつ
それなりじっと眼をつぶりゃ
なんにも聞こえず
また見えず
で作品も終了。
闇夜のままの「やさしさ」は見えず。聞こえず。
ちっちゃなボートは「別れの船」になりました。
センターの外に降る師走の雨より冷たい「やさしさ」です。
童謡が、全く違う味わいとなって読み手に迫る昭和の名作でした。
◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦ 読書会広報部 ◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦
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暮れるヨコハマ