5月読書会報告 邱永漢作「毛澤西」ー逃げる快感ー
5月26日の読書会題材「毛澤西」は久し振りに爽快な風刺小説! 皆様からも
毛沢東そっくりの風貌なのに、真逆の優しさや善良さへの共感、新聞売り
の仕事から感じる活字の大切さ、法廷に漂う可笑しさ、主人公の求めた自由
と自分自身の思いなど活発な意見が続きました。深められた箇所は以下の3つです。
・「俺ア自分の好きなようにしたい。昔上海にいたときも・・俺に似合うような出来合いの服なんかあるものか」
・「上海で新聞を売ってもね、お客が皆とびついてくれなくなったんだよ。・・むさぼるように活字を追う眼つき、
あれがどこかへ消えちゃったんだ。・・」
・毛澤西は、自分の首にかかった犬の首輪を憎らしげに見つめた。「畜生、こいつのおかげだ」やにわにそれを
つかまえて力任せに引っ張ると、プスンと音を立てて紐が切れた。そのままものも言わずに彼は走り出した。
作品の舞台は1950年代の香港、共産党が大陸で勢力を拡大して避難民が急激に流れ込む頃です。貧富の差
がある社会でも、好きなようにしたいと、警官から逃げ回る主人公、鬼ごっこの中で充実感を感じています。
「出来合いの服」とは、先に中国に返還された上海の社会体制でしょう。統制下にある新聞報道の味気無さも出ました。
自分自身の自由と比べる意見も面白かったです。皆様、本を前にすると本当にまっすぐな意見続出でした。
どんな人も、それぞれが持つ能力を発揮して生き生きとやりたいことをやり、それが犯罪や他人の迷惑にならない限り、
その生き方を認めろと主張する「毛澤西」に共感の意見でした。21世紀の社会作りにも通じる行動ではありませんか。
国や組織中心に人間が働くのではない。だから鑑札はいらない。逃げる、逃げる・・全力で逃げて快感!😁😉😜
これ、蒋介石政府の弾圧から香港に脱出して、また日本に逃げて「株の神様」と呼ばれた作者とダブリます。
抗うことの快感と力強いユーモアに包まれた短編でした。当然、現在の世界情勢も話題になりました。
作者の邱永漢は「香港」で直木賞受賞。これも世界史学習では味わえない批判精神の世界が広がります。
機会を見つけて読んでみてください。 ♦♥♣♠◊ 読書会広報部より ♦♥♣♠◊
🤷♀️😎おまけの香港、上海のミニ情報🤷♀️🤷♂️
香港・・アヘン戦争(1840~1842)後南京条約で1843年より約150年間英国統治下。1860年北京条約で九竜半島も英国領。
1997年に主権が中華人民共和国に返還された。「特別行政区ー1国2制度」の下、商業・金融・観光等の
世界的大都市として有名。2020年7月1日に香港国家安全維持法が制定され、1国2制度は撤廃された。
上海・・アヘン戦争後南京条約で英国・米国・仏国・日本等の租界(外国人居留地)を認め香港同様世界的大都市となる。
第2次大戦後1946年中華民国に返還。主人公「毛澤西」は上海にいた頃は、「蒋介玉」と名乗ったと少年に
語っている。1980年代、共産党が大再開発を実施。世界の中心都市として復帰。現在「ゼロコロナ」政策でロックダウン中。