6月読書会報告「バタフライ和文タイプ事務所」小川洋子作
梅雨の晴れ間の6月27日に開かれた読書会の報告です。読書会100冊目の本は小川洋子作「バタフライ和文タイプ事務所」。題材には向かないのではと心配でした。日常では使えない語彙が飛び交っているからです。ただし参加された皆様14人からは率直なご意見、感想が賑やかで作者の意図に近づいた充足感の残る100冊目となりました。
講師から新潮文庫日本文学100年の名作第10巻(最終巻)の特色を話して頂きました。昭和の終わりから平成・令和にかけて活躍する作家の短編16作のうち9作品は女性作家(小川洋子・桐野夏生・恩田陸・三浦しおん・角田光代・桜木紫乃・高樹のぶ子・辻村美月・絲山秋子)しかも山白朝子や木内昇(のぼり)は男性。ジェンダーフリーはいつの世にもありましたが昭和文学の特色として現代に続き大きな流れとなっています。感想意見は今回集中しました。和文タイプの大きなことやレバーのガチャンという音がモダンに聞こえた等の思い出から、生活感の無い言葉や活字から漂う淫靡な世界への驚き、性的エネルギーの持つ怖さや面白さ等です。小さな特殊な世界を広げる文章の巧みさもありました。鉛の活字の語彙等を書き出し、改めて漢字の会意性をつく人、バタフライという事務所の名の由来・・ためらいがちに花に近づき花弁を濡らしながら雌蕊の奥・・蝶の表現や書き出しの文章・・大学の南門を出てすぐ、道が二手に分かれる、まさにその分かれ目のところ・・三角形の・・目立たずすっぽりと二またの要に納まって・・等が官能的とか、主人公の「私」が3階の「活字管理人」に活字をドライバーの先でわざと傷つけ届けに行く場面での息遣い、指遣いの濃厚なフェチ性も話題になりました。主人公が関心を寄せる「活字管理人」はどう読んでも幻想です。活字という無機質の世界を、視覚(漢字の活字)、聴覚(大声や息遣い)触覚(肌触り、指先)を活用して紡ぎ出した小川洋子流の官能小説が読書会の100冊目でした。😥
◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦ 読書会広報部 ◊♠♣♥♦◊♠♣♥♦
梅雨の紫陽花(小川洋子氏の作品のように移り気で多面的です。)